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新鮮なラボ用水を用意すべきか?市販のボトル入り純水か? Part 3

2025/08/22

ELGA Editorial Team

ボトル入りの純水が手に入るのに、わざわざ自分で用意する必要があるのか?

実験の準備や結果の分析において、時間はとても貴重です。だからこそ、「わざわざ純水を自分で作らなくても、ボトル入りを買えばいいのでは?」という考え方になるのも無理はありません。しかし、水は他の試薬や化学物質と同じようには扱えないのです。

研究室で使っているボトル入りの水、その純度、本当に確認できていますか?

規制のある環境下では、ボトル入りの超純水が特定の用途に適しているとメーカーから明確に認証されていない限り、その適合性を確認する責任は研究室にあります。たとえその水が薬局方の規格や、ASTM、ISO、CLSIなどの基準に準拠していたとしても、当てはまります。同じロット内でもボトルごとに汚染物質にばらつきが見られる可能性があるため、こうした確認作業には多くの時間を要することがあります。

PCRに適した水は複数のサプライヤーから提供されており、25本入りの 1 mLや10本入りの 1.5 mLといった少量パックから、500 mL以上の大容量タイプまでさまざまなサイズがあります。小容量の製品は、容器の使い回しによる汚染リスクを回避できますが、その分コストは高めです。多くの製品では、各ロットから1本以上のサンプルボトルを使ってヌクレアーゼ活性の検査が行われますが、PCRの結果に影響を与える要因はそれだけではありません。

ポリメラーゼは金属、特にカドミウムや亜鉛などの遷移金属や二価イオンに対して非常に敏感です。中でもマグネシウムの濃度は重要で、使用する水には実質的にマグネシウムが含まれていないことが求められます。また、マイナスに帯電した有機物もポリメラーゼの非競合的な阻害因子として働く可能性があります。TOC(全有機炭素)レベルは 5 ppb未満であることが望ましいですが、これらの潜在的な妨害要因についての情報は、多くの製品の品質管理データには通常含まれていません。

研究室で求められる水の純度基準を満たすために

CLSI(臨床検査標準協議会)は、ボトル入りの水に関して、比抵抗値、微生物数、TOC値(全有機炭素)、粒子の管理に関する情報、さらにロット番号と有効期限の記載が必要であると定めています。しかし、実際にはこれらすべての情報が提供されていないことも少なくありません。また、輸送中や保管中に水質が劣化するリスクや、ボトルを開封して繰り返し使用する場合に、その期間中ずっと品質が保たれているかを検証する必要性についても強調されています。

薬局方で定められている「精製水(Purified Water)」には、特有の問題があります。モノグラフで示されている純度基準は、無機物・有機物の汚染に対する試験感度が比較的低く、要件自体も緩やかに設定されています。そのため、包装材から溶出する有機物や無機物が相当量含まれていても、基準を満たしてしまう可能性があります。これにより、多くの薬局方試験で求められる最低限の水の純度を大きく上回る不純物が含まれているおそれがあります。

著者紹介:ポール・ホワイトヘッド博士

オックスフォード大学で化学の学士号を取得後、産業応用分野での化学研究にキャリアを進めました。ロンドンのインペリアル・カレッジで、マイクロ波誘導プラズマ検出器の開発により博士号を取得。ジョンソン・マッセイ研究技術センターにて分析サポートチームの管理を担当し、自動車排気触媒や燃料電池などの貴金属分析に携わりました。その後、ELGA LabWaterのR&D部門にて水精製技術の導入と開発を行い、現在は同社のコンサルタントを務めています。