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高知大学
「新薬を待つ患者さんのために」──神経変性疾患に挑むCatalytide研究を支えるエルガの超純水

「薬はまだですか?」──患者さんの切実な声が、研究者を突き動かす。高知大学医学部では、アルツハイマー病やパーキンソン病など難治性の神経変性疾患に挑む新たな創薬が進められています。その最前線を支えていたのは、研究の質を決定づける「水」でした。
1. 神経変性疾患に挑む:Catalytide研究の最前線
海と山に囲まれた高知大学医学部。自然豊かなキャンパスを拠点に秋澤特任教授と中村特任講師らが取り組むのは、神経変性疾患の新規治療薬「Catalytide」の開発です。アルツハイマー病やパーキンソン病といった、難治性の神経変性疾患を根本的に改善する特効薬はまだ存在しません。
Catalytideとは、秋澤先生と中村先生らが発見した短鎖合成ペプチドで、世界で初めて酵素様活性を持つことが確認されました。わずか4~9残基のペプチドが、神経変性疾患の原因とされる凝集タンパク質を画期的なメカニズムで分解します。
「一般的なプロテアーゼはタンパク質表面に結合したのち基質を切断します。しかし、Catalytideは非常にコンパクトな立体構造を持つため、アミロイドなどの基質内部にある空間へ物理的に入りこみ、内側から切断します」(中村特任講師)
また、有効性や安全性にも優れた化合物です。
「Catalytideは鼻腔投与により、血管を介さず中枢へ直接到達することで、脳血管関門(BBB)の通過を必要としません。低侵襲、かつ高効率で脳へ移行します。さらにCatalytideは、自らの役割を終えると分解する『自己切断能』を持つものもあります。過剰な働きによる副作用や免疫反応を抑制でき、中枢神経系の候補化合物として理想的な存在です」(中村特任講師)
2. 実験のクオリティを支える「水」の課題

秋澤先生のラボでは、少人数ながらペプチドの合成から動物実験、コンピュータシミュレーション、そしてデータ解析までを一貫して行います。「自分たちの目の届く範囲で、可能な限りシンプル、かつ効率的に開発を進めています」(秋澤特任教授)
実験の基盤となる「水の品質」は、データを左右する重要な要素です。エルガの超純水製造装置を導入する以前、秋澤先生のラボでは水の供給と品質に関して複数の課題に直面していました。
「私たちの研究室では、非常に精密な合成・分析を行っています。水道管の老朽化に由来する鉛などの不純物は悪影響を及ぼします。場合によっては実験のやり直しなど、リソースを大きく損ねる原因になりかねません。実験に使用する水には常に気を配っていました」(秋澤特任教授)
「高知大学に着任した当初は機器の整備が間に合わず、共有の超純水製造装置からガロン瓶に貯めた超純水を使用していました。しかし、くみ置きの水は時間経過と共に劣化します。HPLCのピークラインが上昇するなど、不具合に悩まされました。高感度な分析には適さない水質と判断し、微量元素分析では専用の超純水を購入していましたが、一度開封した水は品質が低下するため、都度購入しなければなりません。
少ない人数で効率よく研究している中で、他の部屋まで超純水をくみに行かなければならないストレスや、実験のたびに水を購入するコストと環境負荷に、釈然としない気持ちを抱いていました」(中村特任講師)
3. エルガ導入の決め手と効果
学会でエルガのブースを見かけたのをきっかけに、そのコンパクトさやメンテナンスの簡易さに納得して導入に至りました。

PURELAB flex 3は、滴下から最大2L/分までの可変流量や、自動定量採水機能があり、必要な水量に応じた採水で実験をサポートします。
タンク内の水が設定量を下回ると自動でRO水の製造を開始する機能のおかげで、水切れを心配することなく分析から機器洗浄まで、1日20Lほど使用しています。重く、割れる危険性のあるガロン瓶を扱う必要もなくなりました。比抵抗値やTOCなど、タンク内の水質を液晶で使用前に確認できることも安心につながります。
「PURELAB flex 3の導入後は、ベースラインが安定し、MSのピークもぶれることはなく、超高感度分析の信頼性が飛躍的に向上しました。水質由来の不具合がなくなり、スケジュール通り実験を進められます。」(秋澤特任教授)

「狭いスペースしかない水回りにも置けるコンパクトさ、ドラフトのすぐ後ろで超純水がすぐに入手できるなど、PURELAB flex 3を導入して快適に実験が進められるようになりました」(秋澤特任教授)
シンプルでトラブルが起きにくい設計も導入の決め手でした。消耗品の交換はユーザー自身で容易に行え、サービスマンを呼ぶコストや時間を省けます。都市部から距離のある研究環境において、非常に重要なポイントです。
「導入以来故障したことはなく、漏水センサーの警報も現在まで作動したことはありません。フィルター交換のアラートが出てから、新しいフィルターを注文して、自身で交換するだけです。研究室にとって水は大切なインフラ、安定して超純水が供給される環境は研究を力強く支えてくれます」(中村特任講師)
4.患者さまの気持ちと向き合う研究姿勢──Catalytideに託す希望
秋澤先生らはラボ内での研究に留まらず、病に苦しむ患者さんとその家族に希望を届ける活動もされています。アルツハイマー病やパーキンソン病は、患者さんだけでなく、そのご家族にとっても深刻な影響を与える疾患です。秋澤先生らは、パーキンソン病患者会などの患者支援活動に精力的に参加し、講演活動を通じて、新薬を待ち望む患者さんやご家族の切実な思いに触れてこられました。

パーキンソン病患者会で講演する先生方
「患者会の皆さんは『あの薬はいつできますか?』と非常に期待を寄せています」(秋澤特任教授)
新薬開発は患者さんと家族にとって、大きな心の支えとなっています。秋澤先生らは活動を通して「早く薬を作らなければ」という思いを強くし、国内製薬企業との共同研究により特効薬開発を加速しています。
「将来は神経変性疾患に特化した研究施設と病院を建設して、患者さんが安心して過ごせる場所を作りたい」と夢を描く秋澤先生。エルガが提供する高品質の超純水は、夢の実現に向けたパートナーとして、未来を共に切り拓いています。
高知大学医学部 特任教授 (医学博士)
O-Force 合同会社 代表社員
秋澤俊史 先生
高知大学医学部 特任講師 (医学博士、薬学博士)
O-Force 合同会社 業務執行社員
みなみかぜ薬局 薬剤師
中村里菜 先生
取材・文 安藤 鞠(てまりラボ)

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